名古屋地方裁判所 昭和49年(ワ)1627号 判決
原告
玉地美代子
ほか三名
被告
中野喜代次
ほか一名
主文
被告中野喜代次は、原告玉地美代子に対し、金七五〇万四、六七〇円および内金六四〇万四、六七〇円に対する昭和四八年六月二二日から、内金一一〇万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告玉地綾喜、同桑原久実に対し、各金五二九万九、六七〇円およびこれに対する昭和四八年六月二二日から完済に至るまで年五分の割合による金員を、原告株式会社豊栄に対し、金一五五万〇、八二五円および内金一四二万〇、八二五円に対する昭和四八年六月二二日から、内金一三万円に対する本判決言渡の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
原告らの被告中野喜代次に対するその余の請求を棄却する。
原告らの被告辻岡運輸株式会社に対する請求はすべて棄却する。
訴訟費用中、原告らと被告中野喜代次との間に生じたものは、これを一〇分し、その四を原告らの、その六を同被告の各負担とし、原告らと被告辻岡運輸株式会社との間に生じたものは、すべて原告らの負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
被告らは、各自、原告玉地美代子に対し一、一四六万一、三三四円、原告玉地綾喜、同桑原久美に対し、各九一六万一、三三四円および右各金員に対する昭和四八年六月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
被告らは、各自、原告株式会社豊栄に対し二〇二万二、〇〇〇円および右金員に対する昭和四八年六月二二日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言。
二 請求の趣旨に対する被告らの答弁
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
第二 請求原因
一 原告らの身分関係
原告美代子は訴外亡玉地健司の妻、原告綾喜、同久実は同訴外人の子であつて、原告らは相続人である。
二 事故の発生
1 日時 昭和四八年六月二二日午前六時一五分
2 場所 三重県四日市市伊坂町一一三九番地東名阪国道上
3 第一加害車 普通貨物自動車(運転者訴外岡山弘繁)
4 第二加害車 大型貨物自動車(運転者訴外坂田進)
5 被害車 普通貨物自動車(運転者訴外亡健司)
6 態様 被害車が南進中、対向北進してきた第一加害車がセンターラインを越えて被害車に接触し、更に第一加害車に後続していた第二加害車が被害車に衝突し、訴外亡健司が死亡
三 責任原因
1 被告中野(自賠法三条、民法七一五条)
(一) 同被告は第一加害車の保有者であつた。
(二) 同被告は、訴外岡山を雇用し、同訴外人が同被告の業務の執行として第一加害車を運転中、前方不注視のままセンターラインを越えて進行した過失により、本件事故を発生させた。
2 被告辻岡運輸(自賠法三条、民法七一五条)
(一) 同被告は第二加害車の保有者であつた。
(二) 同被告は、訴外坂田を雇用し、同訴外人が同被告の業務の執行として第二加害車を運転中、前方不注視の過失により、本件事故を発生させた。
四 訴外亡健司、原告美代子、同綾喜、同久実の損害
1 訴外亡健司の逸失利益 二、五〇〇万円
(一) 月収 三〇万七、九二七円
訴外亡健司は、豊栄金属工業株式会社に自動車運転手として勤務し、給与として平均月額七万二、三八三円を得ていたうえ、更に自ら運搬業を営み、平均月額二三万五、五四四円を純益を得ていた。
(二) 就労可能年数 三六年
事故当時二七才であつて、六三才までの三六年間就労可能である。
(三) 生活費 三〇パーセント
(四) 逸失利益 五二四四万一、七五四円
〈省略〉
右のうち、本訴においては二、五〇〇万円を請求する。
2 訴外亡健司の慰藉料 二〇〇万円
3 車両損害 九八万四、〇〇〇円
被害車は本件事故により大破し、修理不能となつたが、同車は訴外亡健司が昭和四七年二月一五日二〇五万円で購入したもので、事故当時の価額は、右購入価額に使用期間である一年四か月間の減価償却率〇・四八を乗じた九八万四、〇〇〇円となる。
4 原告ら三名の固有の慰藉料 各一五〇万円
5 葬儀費用 三〇万円
原告美代子が支出した。
6 弁護士費用 二〇〇万円
原告美代子が支払うことを約した。
以上のうち、訴外亡健司の損害1ないし3の合計二、七九八万四、〇〇〇円は、相続により、原告ら三名が各九三二万八、〇〇〇円宛承継した。
五 原告豊栄の損害
1 積荷損害 一八二万二、〇〇〇円
被害車には原告豊栄所有の商品(鳥かご一八二万二、〇〇〇円相当)が積載されていたところ、本件事故のため、同商品はすべて損傷した。
2 弁護士費用 二〇万円
六 損害の填補
原告美代子、同綾喜、同久実は、自賠責保険から各一六六万六、六六六円を受領した。
七 本訴請求
よつて請求の趣旨記載の各損害金およびこれに対する本件不法行為の日である昭和四八年六月二二日以降完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三 請求の原因に対する被告らの答弁
一 被告中野
一は不知。
二の1ないし5は認めるが、6は争う。
三の1のうち、過失の点は争うが、その余は認める。
四、五は不知。
六は認める。
二 被告辻岡運輸
一は認める。
二の1ないし5は認めるが6は争う。
三の2のうち、過失の点は争うが、その余は認める。
四、五は争う。
六は認める。
第四 被告らの主張
一 被告中野(過失相殺)
本件事故の発生については、訴外亡健司にも、対向車がセンターラインを越えて進行してくることを予想し、減速してなるべく車線外側に寄つて走行すべき注意義務を怠つた過失があつた。
二 被告辻岡運輸(免責)
本件事故は、訴外岡山と訴外亡健司との共同過失によつて発生したものであり、訴外坂田は無過失であつた。また第二加害車には構造上の欠陥も機能の障害もなかつた。
第五 被告らの主張に対する原告らの答弁争う。
第六 証拠〔略〕
理由
一 原告らの身分関係
請求原因一の事実は、原告と被告辻岡運輸との間では争いがなく、原告と被告中野との間では〔証拠略〕により認められる。
二 事故の発生
請求原因二の1ないし5の事実は当事者間に争いがなく、同6の事故の態様については後記三で認定するとおりである(なお、本件事故により、訴外亡健司が死亡したことは、〔証拠略〕により認められる。)。
三 責任原因
1 請求原因三の事実は、訴外岡山、同坂田の過失の点を除き、当事者間に争いがない。
2 そこで、右両名の過失の有無を検討する。
〔証拠略〕によれば、本件事故現場は、ほぼ南北に通じる幅員約七・二メートルの舗装された道路で、中央線により上下線が区分され、その北進車線側には幅員約一・二メートル、南進車線側には幅員約二メートルの各路側帯があること、同所付近は、北に向つて半径八〇〇メートルのゆるやかな左カーブとなつているが、前方約二〇〇メートルは見通すことができる場所であること、最高速度七〇キロメートルの規制がなされていたこと、訴外坂田は第二加害車を運転して時速約七〇キロメートルで、自車線上を北進していたこと、訴外岡山は第一加害者を運転し、第二加害車に後続して北進していたが、対向車線に出て同車を追い越し、その後自車線内に戻ることを妨げるような事情がないのに、そのまま対向車線上中央線寄り付近を走行し続け、右追越から二百数十メートル進行した頃、折柄、南進中の訴外亡健司運転の被害車と、南進車線中央付近において、正面衝突(双方の右側前部が衝突)したこと、その頃、第二加害車は、第一加害車の後方約一〇〇メートルで、自車線上を北進していたが、同車との中間に他の普通貨物自動車一台が走行していたため、訴外坂田としこは前方の第一加害車や被害者の状況を見通すことが困難であつたところ、突然、前記衝突による破片の飛散を目撃したので、急制動をかけ、左に転把したこと、しかし、被害車が同衝突による衝撃のため、対向(北進)車線に進入したうえ、ほぼ道路を遮断するように横転したので、更に同車に第二加害車が衝突したことが認められ、以上の事実によれば、本件事故の発生について、訴外岡山には、センターライン・オーバーおよび前方不注視の重大な過失が認められるが、訴外坂田は自車線上をほぼ制限速度で走行し、第一加害車と被害車との衝突事故を察知するや、急制動をかけ、道路左側に寄つたが、なお被害車との衝突を避けられなかつたものであり、それ以前に事故の発生を予測し、衝突回避の措置を採ることはきわめて困難な状況にあつたものというべきであるので、過失と評価し得る程の責はなかつたものと認められる。
3 従つて、被告中野には、自賠法三条、民法七一五条の責任があるが、被告辻岡運輸には民法七一五条の責任はなく、更に弁論の全趣旨によれば第二加害車には本件事故の発生に関連のある構造上の欠陥および機能の障害はなかつたものと認められるので、自賠法三条の責任もない。
四 訴外亡健司、原告美代子、同綾喜、同久実の損害(損害額の計算については円未満を切り捨てる。)
1 訴外亡健司の逸失利益 一、八六〇万三、〇七〇円
〔証拠略〕によれば、訴外亡健司は、事故当時二七才の健康な男子で株式会社豊栄に自動車運転手として勤務し、固定給月額七万円位を得ていたほか、自動車運送事業の免許を受けないで、自ら自動車運送事業を営み、右固定給をはるかに上回るかなりの収入を得ていたことが認められる。しかし、このような無免許営業は道路運送法に違反するものであり、その取引効果は無効ではないにしても、法律上認められないことにかわりがないから、右違法行為を前提とする逸失利益は法の保護に値しないというべきであり、否定するのが相当である。もつとも、同訴外人の前記固定給は運輸通信業男子全労働者の平均賃金を下回るものであり、右無免許営業をしなかつたならば、少くとも右平均賃金は得られたものと推認される。そこで、結局、同訴外人の逸失利益は、右平均賃金を基準に算定するのが相当と認められる。
(一) 収入 年額一三一万〇、八〇〇円
昭和四八年度運輸通信業二七才男子労働者の平均賃金
(二) 就労可能年数 三六年間
二七才から六三才まで。
(三) 生活費 三〇パーセント
(四) ホフマン式計算法
〈省略〉
2 訴外亡健司の慰藉料 二〇〇万円
本件事故の態様、結果、訴外亡健司の年令、親族関係、その他諸般の事情を考慮。
3 車両損害 九八万四、〇〇〇円
〔証拠略〕によれば、本件事故により被害車は大破し、修理不能となつたこと、同車は訴外亡健司が昭和四七年二月一五日二〇五万円で購入し、事故時までの一年四か月間使用したものであることが認められるところ、普通貨物自動車の同期間の減価償却率は五二パーセントであるから、残存価額は右購入価額に四八パーセントを乗じた九八万四、〇〇〇円と認められる。
〈省略〉
4 原告ら三名の固有の慰藉料
(一) 原告美代子 二〇〇万円
(二) 原告綾喜 一〇〇万円
(三) 原告久美 一〇〇万円
本件事故の態様、結果、原告らと訴外亡健司の親族関係、その他諸般の事情を考慮。
5 葬儀費用 三〇万円
経験則、弁論の全趣旨によれば葬儀費として三〇万円が相当であること、原告美代子がこれを負担したことが認められる。
以上のうち、1ないし3の訴外亡健司の損害合計二、一五八万七、〇七〇円は、相続により、法定相続分に従い、原告ら三名が各三分の一宛、即ち七一九万五、六九〇円宛承継したものと認められる。
従つて、原告らの各損害は、原告美代子につき九四九万五、六九〇円、原告綾喜、同久美につき、各八一九万五、六九〇円となる。
五 原告豊栄の損害
〔証拠略〕によれば、被害車には原告豊栄所有の商品鳥かごが積載されていたこと、本件事故により被害車が横転、大破し、同商品も損傷し、商品として使用不能になつたこと、同商品の販売価額は一八二万二、〇〇〇円であるところ、その販売利益率は平均九パーセントであることが認められ、以上の事実によれば、同原告は同商品の再調達費用(販売価額から販売利益を差し引いたもの)である一六七万一、五五九円(1,822,000÷1.09≒1,671,559)の損失を受けたものと認められる。
六 過失相殺
前記三で認定の事故の態様によれば、訴外亡健司は、約二〇〇メートル前方から第一加害車がセンターラインを越えて進行してきたのを発見し得たはずであり、しかも南進車線側の幅員は路側帯も含め五・六メートルあるのであるから、第一加害車の動静に注意し、衝突の危険がある場合には、道路左寄りに避譲して進行すべき注意義務があつたのに、これを怠つた過失があつたものと認められ、訴外岡山の過失の程度を合せ考慮すると、双方の過失割合は訴外岡山八五パーセント、訴外亡健司一五パーセントとするのが相当と考えられる。
そこで、原告美代子、同綾喜、同久実の各損害に対し、過失相殺をすべきことは勿論であるが、更に、原告豊栄の損害に対しても、訴外亡健司が原告豊栄の従業員であり、本件事故が同原告の商品を運搬中に発生したものであることを考慮に入れると、同訴外人の過失による損害相当分については両者間の内部問題として処理するのが公平であつて、やはり過失相殺をするのが相当と認められる。
従つて、原告らの前記各損害額から一五パーセントを減ずると、その後の各損害額は、原告美代子につき八〇七万一、三三六円、原告綾喜、同久実につき各六九六万六、三三六円、原告豊栄につき一四二万〇、八二五円となる。
七 損害の填補
請求原因六の事実は当事者間に争いがない。
よつて、原告美代子、同綾喜、同久実の前記各損害額から右填補分各一六六万六、六六六円を差し引くと、残損害額は、原告美代子につき、六四〇万四、六七〇円、原告綾喜、同久実につき各五二九万九、六七〇円となる。
八 弁護士費用
(一) 原告美代子 一一〇万円
(二) 原告豊栄 一三万円
本件事案の内容、審理経過、認容額等を考慮。
九 結論
よつて、原告らの本訴請求は、被告中野に対する部分は、同被告に対し、原告美代子につき七五〇万四、六七〇円および内弁護士費用を除く六四〇万四、六七〇円に対する本件不法行為の日である昭和四八年六月二二日から、内弁護士費用一一〇万円に対する本判決言渡の翌日から、各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、原告綾喜、同久実につき、各五二九万九、六七〇円およびこれに対する前記昭和四八年六月二二日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金、原告豊栄につき一五五万〇、八二五円および内弁護士費用を除く一四二万〇、八二五円に対する前記昭和四八年六月二二日から、内弁護士費用一三万円に対する本判決言渡の翌日から各完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却し、被告辻岡運輸に対する部分はすべて理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 熊田士朗)